はやわかりGrowthの歴史1(新古典派登場編)

はじめに

Growthの歴史についてを簡単にまとめようと思ってました.しかし怠けていて時間が無くなったので,今回は新古典派が登場するところまでをまとめます.歴史と言いつつほとんどモデルの紹介になりました.そんなにまじめに書いていないのでどうか参考程度に.

(この文章はみゅーもり Advent Calendar 2018 - Adventarの14日目分です.)

新古典派による成長理論

1.ケインズ経済学とHarrod-Domarモデル

まずは新古典派の登場のきっかけになった,ケインズ経済学による成長モデルを紹介しておきたい.それはHarrod-Domarモデルである(Harrod(1939), Domar(1946)).

 Harrodは時間を定義しておらずややこしいので,Domar(1946)を参照する.

モデルの設定

まず,次のような仮定を置く:

  1. 生産量({P})は資本({K})によって決まる.
  2. 投資の(実際の生産量に対する)生産性({dP/I})は一定 ({\sigma}).
  3. 投資の(潜在的生産量に対する)潜在的生産性も一定({s}).
  4. 潜在的生産性は生産性を超えない({\sigma \le s}).

上の仮定,特に2.から,次式

 \frac{dP}{dt}=Iσ \tag{1.1}

を得る.

さて,ケインズ経済学のため,需要側は乗数理論によって総需要を決定する.すなわち,総需要の増加量は投資の増加量で決まる.したがって

 \frac{dY}{dt}=\frac{dI}{dt}\frac{1}{\alpha} \tag{1.2}

という関係式が成り立つ({\alpha}は投資乗数).

均衡では{P=Y}が成り立つので,

 \frac{dP}{dt}=\frac{dY}{dt} \tag{1.3}

となり,さらに(1.1), (1.2)式を代入すると

 I = I_0 e^{\alpha σ t}

を得る.ただし{I_0}は投資の初期値.これは均衡における投資の成長を表す.

さらにここで追加の仮定として

  1.  \frac{I}{Y}=\alpha
  2.  \frac{P}{K}= s

を置く.

成長経路

さてようやく成長経路の説明ができる.ここでは,投資が均衡成長とは限らないある値{r}で動くとする.{\sigma}の値によって異なる結果が出るとしているが,結論は同じであるので,ここでは{\sigma=s}の時のみを紹介する.

このとき,{t}期における資本量は

 K=K_0 + I_0 \int_0^t e^{r t} dt = K_0 + \frac{I_0}{r} (e^{r t}-1)\tag{1.4}

である.さらに追加の仮定を用いれば

  \frac{Y}{K} = \frac{I_0 e^{r t}/ \alpha}{K_0 + \frac{I_0}{r} (e^{r t}-1)} \tag{1.5}

 したがって

 \lim_{t \rightarrow \infty} \frac{Y}{K} = \frac{r}{\alpha}  

 を得る.さらに仮定より

 \lim_{t \rightarrow \infty} \frac{Y}{P} = \frac{r}{aσ}

となる.この式は総需要と生産量の乖離を示していて,実際{r=\alpha σ}であれば1,すなわち乖離がないと分かる.

したがって,{r=\alpha σ}でなければ,完全雇用とはなりえず,常に{1-\frac{r}{aσ}}のぶんだけ使われない資本が増大していく.資本が完全雇用となる均斉成長には至らないというわけだ.

モデルの要約

このモデルは資本が外生的に成長し,需要側が生産量を決めるケインズ的状況であれば,均斉成長は難しいということを示した.

ところで追加の仮定は,簡単化のためとはいえ大胆な仮定である.これを(1.1), (1.2)式,および暗に定まっている{dK/dt=I}と合わせると,

 \frac{dY/dt}{Y}=\frac{dI/dt}{I}

 \frac{dP/dt}{P}= \frac{σ}{s} \frac{dK/dt}{K}

となる.すなわち投資の変化率は総需要の変化率に,資本の変化率は生産量の変化率の定数倍に等しいということだ.このとき資本が投資と同じだけ成長しないならば,当然のことながら総需要と総生産は一致しない.

2.Solow-Swanによる新古典派成長理論

 以上のモデルを修正したとして登場したのが,Solow(1956), Swan(1956)の成長モデルである.まずはモデルを概観しよう.説明はSolow(1956)に従う.

モデルの設定

 Harrod-Domarを受けているので,当然似たような仮定をもつ.

  1. 生産量({Y})は資本({K})と労働({L})によって決まる.
  2. 生産は規模に対して収穫一定である.
  3. 生産量のうち,投資に回す比率は一定(外生的貯蓄)とする({s}).
  4. 人口は外生的に増加する(比率: {n}).

生産関数を{F(\cdot, \cdot)}としよう.すると,以上の仮定は

 Y=F(K,L) \tag{2.1}

 F(\lambda K, \lambda L ) = \lambda F(K, L) \tag{2.2}

 \frac{dK}{dt} = sY \tag{2.3}

 L = L_0 e^{nt} \tag{2.4}

と表せる.以上より,

\begin{align} \frac{dK}{dt} &= sF(K, L) \\ &= sF(K, L_0 e^{nt})\tag{2.5} \end{align}

を得る.

 新古典派なので,供給側から需要が決定される.そのため,需要サイドの制約条件はこのモデルには存在しない.また,非自発的失業も考えないため,労働が一定量(自動的に)供給される.

Domarとの違いは,生産関数に労働が入っていること,そして投資が外生的に与えられた成長率でなく,生産量に対して定まるという点である.

成長経路

このモデルで 成長経路をみるために不可欠な要素が資本ー労働比率である.資本ー労働比率{r}は次式で表される.

 r = \frac{K}{L}

 上式を時間で微分し変形すると

 \frac{dK}{dt} = L_0e^{nt} \frac{dr}{dt} + nrL_0e^{nt} \tag{2.6}

となる.

(2.2), (2.5)式を利用すると

\begin{align} \left(\frac{dr}{dt} + nr \right)L_0e^{nt} &= sF(K, L_0 e^{nt}) \\ &= sL_0e^{nt} F\left( \frac{K}{L_0e^{nt}}, 1 \right) \\ \therefore \frac{dr}{dt} &= sF(r, 1)-nr \tag{2.7} \end{align}

となる.

(2.7)式より,経済の成長過程は資本ー労働比率の微分方程式によって表されることがわかる.

というわけでここからは位相図による分析が可能だ.詳しい分析は論文にゆだねるが,生産関数は資本の増加関数かつ資本に対して収穫逓減であれば,{sF(r,1)=nr}なる均衡が必ず存在し,その均衡は安定的であることが示される.

関数形の選択

さて,先ほどは関数に仮定を置くことで均衡を得たが,他の関数ではどうだろうか. 論文ではレオンチェフ型を考える.すなわち,ある定数{a, b}が存在して

 Y=F(K,L)=\min \left( \frac{K}{a}, \frac{L}{b} \right)

となるような関数である.すると,どちらかの最小値でしか生産できないため,資本あるいは労働がいくらか無駄になりうる.そう,まさにケインズ経済学のように,不完全な雇用が生まれるのだ.そして,この関数では貯蓄率が人口成長率の{a}倍でなければ,不安定な均衡しか得られない.まさにHarrod-Domarモデルと同じである.

一方,Cobb-Douglas関数({F(K,L)=K^\alpha L^{1-\alpha}})を用いれば,安定的な均衡が求まる.そして均衡においては

 \frac{K}{Y}=\frac{s}{n}

となる.つまり,資本ー生産量比率は需給調整の結果として現れるものであり,仮定しているものではない,ということだ(Domarでは{P/K=s}を仮定としていた).

モデルの要約

Solowモデルは新古典派の考え(供給側から生産量が決まる)のもと,より少ない仮定で安定的な均衡を導き出し,さらにHarrod-Domarモデルが仮定として置いていたものをモデルの帰結として導き出した.Solowもなお貯蓄を一定にしているなど変更の余地はあるものの,「安定的な成長経路が存在する」という主眼を少ない仮定で示したことは素晴らしい.

ところで,Solow(1956)の冒頭はこの文章で始まる:

All theory depends on assumptions which are not quite true.
That is what makes it theory. The art of successful theorizing is to make the inevitable simplifying assumptions in such a way that the final results are not very sensitive. A "crucial" assumption is one on which the conclusions do depend sensitively, and it is important that crucial assumptions be reasonably realistic. When the results of a theory seem to flow specifically from a special crucial assumption, then if the assumption is dubious, the results are suspect.

そしてこの後にHarrod-Domarへの批判と新しいモデルの紹介が来る.最高にクールではないだろうか?

 

おわりに

つづきはまた来週に載せます(言っておくことで逃げ場をなくしていく)ああ、愚かな私は更新しませんでした。

ところで,成長論以外のマクロ経済学の流れについては,先日見つけたこちらのpdf(http://sites-final.uclouvain.be/econ/DP/IRES/2011028.pdf)が役に立つと思います.ぜひどうぞ.

さらにこのwebサイト(https://cruel.org/econthought/essays/growth/growthcont.html)にて成長論,とくにRamsey,Solow,Cass-Koopmansあたりの流れがわかるかと思います.てかもうこれだけで全部わかるじゃん.私が書く意味とは.

引用論文

Domar, E. D. (1946): ''Capital Expansion, Rate of Growth, and Employment," Econometrica, 14, 137-147.
Harrod, R. F. (1939): "An Essay in Dynamic Theory," The Economic Journal, 49, 14-33.
Solow, R. M. (1956): "A Contribution to the Theory of Economic Growth," The Quarterly Journal of Economics, 70, 65-94.
Swan, T. W. (1956): "ECONOMIC GROWTH and CAPITAL ACCUMULATION," Economic Record, 32, 334-361.